mellow yellow sky

All photos and words 2015- © ayako nakamura / All rights reserved / Photos and words may not be used without permission

東北、2015年、春。③ 陸前高田

f:id:mellowyellowsky:20150424214820j:plain

気仙沼からBRTで陸前高田・奇跡の一本松駅へ。
時間帯のせいもあってか、気仙沼からのバスに私以外の乗客がいない。
ほぼ貸し切り状態のため、運転手の方や乗客のおばあさんとお話しをする。

 

f:id:mellowyellowsky:20150424215230j:plain

「名古屋からいらしたんですか…へえ。名物っていうと、あの、うどんの平べったいの?」
「お母さんが青森ですか。じゃあ、しっかりと東北、見ていって下さいね」
「北の方に行けば行くほど、梅と桜は一緒に咲くんですよ」
そんな会話も海に近づくほど、口調はやわらかいまま、どこか険しさを帯びてゆく。

 

f:id:mellowyellowsky:20150424214821j:plain

f:id:mellowyellowsky:20150424214822j:plain

「この辺まで津波が来たんですよ。あの建物は学校なんだけれども、三階まで飲まれてしまった」 

f:id:mellowyellowsky:20150424214828j:plain

 「よく見て、覚えておいて下さい、ほらあそこ、あれが一本松」
護岸工事をしている場所に、かよわい、松が一本、見える。
「つきましたよ。奇跡の一本松駅です」

運転手さん、乗客のおばあさんと別れ、ひとり、降りる。

 

とても正直に言うと、なにもない、ただの駐車場のような空間だった。

でも、去年野蒜駅で見たからわかる、
ここは、ひとが住んでいた場所で、流されてしまったところだ。

長い長いベルトコンベアーで砂を運んでいる。
陸地を高くするためだ。
そのパイプは松を囲むように建造され、工事用の車両が行き来している。

f:id:mellowyellowsky:20150424214824j:plain

f:id:mellowyellowsky:20150424214827j:plain

f:id:mellowyellowsky:20150424214825j:plain

空恐ろしくなった。
市の建てた土産小屋やカフェ等はあるものの、
かつての生活のにおいはまるでしない。
四年経ったいまも、ここは、空白が支配している。

一本松に向かう。

 

途中、10人ほどの撮影隊やひとりで来たと思しい旅行者とすれ違う。
それ以外に人は、いない。

立ち入り禁止のパイプに覆われ、松はおろか、海には一定距離以上、近づくことはできない。

f:id:mellowyellowsky:20150424214826j:plain 

四年。
自然の前に、ひとの力はあまりにも、無力だ。

 

なにもできず、ただ、立ち尽くす。
と、帰りのBRTの時間に。

…が、バスが来ない。5分経過。
行ってしまったかな。時間、つぶそうか。

何か土産物か何かがあればと、カフェに立ち寄る。

f:id:mellowyellowsky:20150408100754j:plain

半ば諦めてはいるものの、それなりに時間が気になる。じっくり見たかったが、アイスクリームやお茶など、気になったものを少し購入。

お店の方に尋ねる。

「BRTって、時間どおり来ますか?」
「いつもは来ますけれど…あ、来た」
「! ありがとうございます!
お釣りは寄付でいいので!」

飛び出して行ったものの、お店の方が追いかけてきてくださる。
ほんの小額だ、タクシーの運転手のチップでもこれくらい受け取ってくれる。
「いいですよ本当に!」
「だめです! またいらして下さい!」
こんなやりとりをしつつ、バス到着。
…少し、あたたかい気持ちで、バスに乗る。


BRTの運転手さんと話して、より気持ちを引き締めたことができた。
「私の仕事は、残すこと、伝えること」

そんな気持ちで、BRTの中からもシャッターを切る。
手の中のアイスクリームが冷たくて、走って上気した身体に気持ちがいい。

 

気仙沼駅にて、また別のBRTを待つ間、アイスを食す。
と、それが実は名古屋の店や高校生と陸前高田市が作ったものと気付く。

f:id:mellowyellowsky:20150408102819j:plain

名古屋から来た私が、ほんの少しの時間で手に取った、すこしの奇跡。
りんごのシャリシャリした食感とはちみつの甘みの思い出が、いまも心の中に残っている。